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ホルムズ閉鎖を放置するトランプ
2026年4月3日
田中 宇
イラン戦争は、イスラエルのための戦争だ。イランは、イスラエルにとって残っている最大の脅威だ。イスラエルが、イランの脅威を消す、もしくはできるだけ減らすために、イスラエルの言いなりになるトランプの米国を引っ張り込んで始めたのが今回の戦争だ。
(イラン戦争の終わり方)
イスラエル(と傘下の米国)がイランの脅威を消すには、イランの軍事力と政権を握る革命防衛隊を潰すことだ。終戦直後の日本のように、軍部=革命防衛隊を全消滅させる必要がある。防衛隊は、自分たちが潰されていく道になりうるので、米国との交渉、譲歩や停戦を拒否している。
ネタニヤフは最近、今回の戦争でイランの軍事力を大方破壊したので、イランはもうイスラエルにとって大した脅威でないと表明した。トランプも同様のことを言っている。
(Netanyahu: Iran no longer poses an existential threat to Israel)
イランはすでにミサイルなど大型の兵器類のほとんどを破壊されたようだが、まだ無人機などイスラエルを攻撃できる兵器を持っている。イランがイスラエルを攻撃する限り、米イスラエルがイランを攻撃し続ける。
いずれイランがイスラエルを攻撃できなくなると、米イスラエルにとってこの戦争が一段落する。しかしその後も、イランはホルムズ海峡を航行する船舶を攻撃でき、海峡の閉鎖が続く。海峡の対岸のUAEやサウジなどアラブ産油諸国の施設も攻撃できる。
イランからイスラエルまで1000キロ以上あるが、イランからUAEまでは100キロしかない。イランは、無人機を大量生産して隠匿してあり、イスラエルを攻撃できる兵器がなくなった後も、ホルムズ海峡や対岸への攻撃を延々と続けられる。
(US, Iran Discussing Ceasefire In Exchange For Reopening Strait, As Iran Supreme Leader Vows To "Continue Resistance")
この戦争は、イスラエルのための戦争だ。イスラエルにとってのイランの脅威が大幅に減じたら、そこで米イスラエルはイラン攻撃をやめられる。ホルムズ海峡が閉鎖されたままでも、それ自体はイスラエルの脅威にならない。
イランは、ホルムズ海峡の閉鎖を続けることで世界経済を危機に陥れ、世界に対して責任をもっているはずの覇権国のトランプを困らせ、防衛隊の政権が維持される形で停戦交渉に持ち込みたい。
(Strait of Hormuz won’t return to pre-war status quo - Iranian official)
だが、トランプは初当選時から覇権放棄屋だ。2期目になってイスラエル傀儡色を強め、今回の戦争は完全にイスラエルのためだ。ホルムズ閉鎖はイスラエルの脅威にならないし、米国自身もホルムズ海峡経由の石油ガス輸入がほとんどない。
だからトランプは最近「ホルムズ海峡の再開をやるのは、米国でなく、ホルムズ経由で石油ガスを輸入してきた諸国が、自分たちでやるべきだ」と言い出している。「エネルギーなどの安全保障をもう米国に頼るな」と言い放つことで、格好の覇権放棄にもなる。
(The Iran war and the death of the global maritime commons)
トランプはまた「イランが交渉に応じなくても、イランで破壊すべき対象をすべて破壊したら、この戦争を(とりあえず)終える」とも言っている。破壊すべき対象を決めているのはイスラエルだ。
トランプは、2-3週間で戦争を終えられると言っている。だがこれは、ホルムズ海峡の再開まで2-3週間という話でない。米イスラエルが一方的に攻撃を停止した後も、イランは米イスラエル敵視をやめず、海峡閉鎖を続ける可能性がある。
(Off-Ramp In Progress? Israeli Media Signals 'Completion Phase' Of Iran War)
ホルムズ経由で石油ガスを輸入してきたのは、主にアジア諸国だ。日本はその筆頭だ。中国もホルムズ経由で大量輸入してきたが、中共はイラン政府が最も信頼している国であり、戦闘停止後の中国船のホルムズ航行は問題ない。だが日本や韓国、ASEANなど、親米的な諸国の船はそうでない。
アジアではすでに、フィリピンと韓国がエネルギーの非常事態を宣言し始めている。日本も時間の問題だ。
("Save Every Drop Of Fuel": South Korea Tells Citizens To Conserve, Ride Public Transit Amid Energy Shock)
米イスラエルとイランとの戦闘が2-3週間で終わるかどうかもわからない。イランの攻撃力が大幅に落ちるまで2-6か月かかっても不思議でない。戦闘が続く限り、ホルムズ海峡の航行は中国船にとっても危険だ。
ペゼシュキアン大統領と革命防衛隊の権力闘争が伝えられ、大統領側が勝つとトランプ流の政権転覆(ソフト転覆)になり得る。だが、逆に大統領側が負けるかもしれず、行方が不透明だ。
(IRGC takes de facto control of Iran government amid deepening power struggle)
防衛隊が権力を握り続ける限り、米イスラエルとの対立が続き、ホルムズ海峡は再開されない。他の諸国が説得しても防衛隊はホルムズを再開しない。トランプがホルムズ防衛を放棄する中で、他の諸国が軍事的にイランにホルムズ再開を強要することも不可能だ。
ホルムズを通らない石油ガスのパイプラインによる輸出ルートの補強が始まっているが、時間がかかる。世界的な石油ガス不足がこれから本格化していく。
(Gulf States Considering Network Of New Pipelines To Bypass Strait Of Hormuz)
日本はカザフスタンとアゼルバイジャンからの石油輸入を増やすことにした。日本企業のINPEXは2000年前後から両国の石油開発に参加しているが、日本に運び出すルートはイスラエル系だ。高市が米イスラエルに味方したことの返礼でないか。
カザフスタンからパイプラインとカスピ海のタンカーでアゼルバイジャンまで運び、アゼルバイジャンの石油と合流してトルコの地中海岸のジェイハン港までパイプラインで運ぶ。
(リクード系の覇権拡大)
このルートは、イスラエルが使っている石油輸入の道筋だ。イスラエルは近年、自国用の石油を確保するため(それとイランに味方する中国を包囲するため)、アゼルバイジャンとカザフスタンに接近して覇権下に入れている(一時はロシアも押しのけられた)。
地中海からスエズ運河、もしくはイスラエル国内のパイプライン経由で、紅海、インド洋を通って日本に運ぶが、途中のイエメン沖でフーシ派から攻撃される可能性がある。何度も積み替え、長距離を運ぶ費用もかかる。
(コーカサスをトルコに与える)
それよりも有望な代替策は、ロシアからの石油ガス輸入の再開・増加だ。ウクライナ開戦以来、日本は「ロシアのウクライナ侵攻」へのG7の制裁策として、既存のサハリン2のLNG輸入以外のロシアからの石油ガス輸入を止めている。
だが最近、ロシア軍が、ウクライナ領だったルハンスク州のすべてを奪取し、残っているドネツク州の東部からもウクライナ軍を追い出しそうな勢いになっている。
(Russia claims to have seized control of the entire Luhansk region)
ロシアがウクライナ戦争を始めたのは、ドネツクとルハンスクの住民の大半を占めるロシア系の人々に対し、ウクライナ当局が弾圧や殺害を加速したからだ。ソ連の後継国であるロシアの政府は、ウクライナなど旧ソ連諸国に住む露系住民を守る「邦人保護」の任務があった。
(ロシアの優勢で一段落しているウクライナ)
ウクライナの戦闘の多くは、ドネツクとルハンスクの東部の境界線沿いで行われてきた。今後、露軍が2つの州のすべての地域を取ってウクライナ軍を追い出すと、ロシアとしての戦争(もともとロシアは2州を準国内とみなしていたので、ロシアにとっては戦争でなく特殊作戦)の目的は達成される。
目的達成で、ロシアは特殊作戦の(一応の)終了を宣言できる(ウクライナ軍はその後も無人機などで越境攻撃してくるので防衛は継続)。この終戦宣言をG7側(日本)が「ロシアのウクライナ侵攻の終わり」とみなすと、対露制裁を解除して石油ガスの輸入を再開できる。
(Energy Market Could Collapse Due to Iran War)
ゼレンスキーのウクライナは戦闘を継続するから、G7のうち西欧諸国はロシア敵視を続ける(自滅を加速)。だが日本は「ホルムズ閉鎖でロシアの石油ガスが必要」という理由でそこから離脱できる(他のG7はホルムズ依存が低い)。こっそり親露なトランプは日本を容認する。
そういう流れの中で、ウクライナ戦争の(一応の)終了を見据えて、日本政府が5月に日本企業群をまとめてロシアに経済訪問団を派遣する計画も報じられている(政府は今のところ否定)。
(Trump threatened to halt Ukraine aid unless Europe joined Hormuz coalition)
これらが具現化するかどうか。まだ不透明だが、その一方でホルムズ閉鎖が長期化する可能性は確実に高まっている。日本がロシアから石油ガスの輸入を再開せざるを得なくなる可能性も高まっている。
アジア諸国の中ではすでに、非常事態宣言したフィリピンと韓国が、相次いでロシアからの石油類の輸入を再開している。日本がこれに加わるのは時間に問題と思える。
(Oil-Starved Asia Turns to Russia After U.S. Waiver)
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